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CEO / Board Advisory Services

取締役会見直す契機に 日本でも始まったガバナンス・コード対応

 



​コードの〝肝〟、取締役会評価
自らを客観視することに不慣れな国内企業には、ある種のカルチャーショックだったかもしれない。金融庁と東京証券取 引所が、昨年から上場企業に適用を求めている「日本版コーポレートガバナンス・コード」の「取締役会実行性評価」のこと だ。

コーポレートガバナンス・コードは73項目に及ぶ企業ガバナンス向上の指針だが、企業はすべての項目に、「コンプライ (実施)」か「エクスプレイン(実施しない場合の説明)」か、いずれかの選択を求められる。初年度の企業対応において、こ の後者、つまり実施見送りが最も多かったのが「取締役会実効性の評価」(補充原則4-11-③)の項目であった。言い 換えれば、国内企業には「取締役会のあり方」を再考する提起そのものへの戸惑いが見られたのである。 今回のコード対応には、総じてさまざまなバラつきがあり、「コンプライ」項目を増やそうとするあまり、総じて表面的な自 己評価に留まった企業も少なからずあった。

そもそも、日本企業の場合、従来の各種調査でも「顧客満足度調査」「プロジェクト終了後のサーベイ」といった質問へ の回答率は圧倒的に低く、事後的な検証や建設的フィードバックを行う文化が定着していない。「評価」という行為そのも のへのアレルギーもある。この言葉に「最終判定」のようなニュアンスを感じ取ってしまい、「改善すべき点をあぶり出す」と いう自己評価本来の目的をしばしば見失いがちなのだ。

しかし、ここで強調したいのは、ガバナンスのあり方を企業自らが点検する取り組みは、今や世界的な潮流になってお り、初年度の回答で各社の戸惑いが最も際立った「取締役会実効性評価」の項目こそ、実は今回のコーポレートガバナン ス・コードにおける〝眼目〟とも言える最重要項目だということだ。

取締役会評価とは何か
コーポレートガバナンス・コードにおいては、「企業の持続的な成長」や「中長期的な企業価値の向上」への責務を負う存 在として、取締役会が位置付けられている。具体的には、実効性のある手段で経営陣や取締役を監督し、幹部人事などを 適切に行う役目だ。取締役会がその責務を十分に果たしているか否か。それを検証する作業が「取締役会実効性評価」な のである。
今回のコード導入は、基本的に企業ガバナンスの自主的な向上が目的だが、対株主の説明責任、という観点でも、「取 締役会実効性評価」のプロセスや評価項目、課題認識、改善プロセス等々は、極めて重要な情報と考えられている。
取締役評価の歴史をさかのぼると、1980年代後半に英国で相次いだ企業不祥事、2000年代初頭のエンロン、ワールド コムの不正会計、破綻、といった出来事を受け、欧米各国で、取締役会の実効性についての評価を義務付けたり、奨励し たりする方向になったと言われている。日本では、第2次安倍内閣の成長戦略の一環として、日本版コーポレートガバナン ス・コードが制定される中、OECDや英国FRC1の規範にあるような取締役会評価が盛り込まれることになった。 欧米の上場企業は現在、約90%が取締役会評価を行っているとされ、英国では企業内の自己評価に加えて、3年ごとに 外部機関から評価を受けることも奨励されている。グローバル企業について言えば、もはやそのガバナンス報告書には必 ず、取締役会評価のプロセスと結果が開示されている。

初年度の取締役会評価
2015年末、取締役会評価の項目に「コンプライ(実施した)」と回答した企業は、東証1部及び2部上場企業251社のうち63% だったという2。初年度としてはこれでも、予想以上の実施率だったと見ていいのかもしれない。
ラッセル・レイノルズのヒアリングによると、その多くは社内での自己評価の形で実施したようだが、事前に質問票を作 成する作業では、外部機関の支援を受けた企業も存在する。20~30項目から成る質問票を取締役会で配布して各メンバ ーに回答を求め、回収した結果を事務局や取締役会議長、顧問法律事務所あるいは外部機関が分析し、評価としてまと めている。グローバル企業などで用いられる質問票の設問は通常、60以上にも及ぶが、日本企業の場合は、比較的簡易 なものを利用する傾向が見られた。自己評価の内容については、各社で集計、分析した結果を発表した後で、2016年の3 月~5月の取締役会でそれぞれ内部的な討議検討を行ったと思われる。

取締役会評価を社内での作業に終わらせず、専門の第三者機関による外部評価を行った会社は推定数十社。ここで 言う第三者機関とは、ラッセル・レイノルズのようなリーダーシップアセスメントコンサルティング会社やIR会社、会計事務所 のコンサルティング部門などだが、日本企業の場合、取締役会に外部の専門家が参加することにはまだ抵抗感も根強く、 このような外部専門家の活用が広がるには、もう少し時間がかかりそうだ。
外部評価の作業も、最初のステップは取締役会メンバーによる匿名の自己評価から始まる。コンサルタントはその分析 結果をもとに、各メンバーに1時間から1時間半の時間をかけ、より深い内容のヒアリングを行う。この二段構えのプロセス を実施することで、取締役会における課題をより具体的に抽出し、論点整理をすることが可能になる。取締役会の他、指 名委員会や報酬委員会などの組織を持つ企業では、それぞれの委員長に対してもヒアリングを行う。

 

自己評価と外部評価それぞれの長所および課題は、次頁の図にまとめた。自己評価には、評価作業の簡易さやコスト 上のメリットがあり、手探りで行う初めての検証としては、妥当な選択だったとも言える。多くの企業では自己評価をまとめ た後、その結果について話し合うことで、取締役会のあり方を改めて考えるきっかけになったことだろう。取締役会の目的 や課題という原点に立ち戻ることで、メンバー間に再認識された論点も少なからずあったはずだ。
しかしながら、自己評価には外部評価に及ばない部分もある。取締役会メンバーが自らを評価する形式では、客観性 や厳格さの徹底はどうしても難しくなってしまう。今後、日本国内においても機関投資家等のステークホルダーが取締役会 の実効性に関心を深めると仮定した場合、評価の信頼性や客観性の担保、バラつきのない継続的な取り組み、という観 点から、次の段階では「評価の質」も問われることになる。
欧米でも、取締役会の個々の議論内容まで開示が求められるわけではない。それでもステークホルダーに取締役会の 運営状況を透明化することは、すでに世界的な潮流になりつつあり、その手段として外部評価を活用する先進企業は増え てゆくと思われる。

 

初年度評価から見えてきた課題
今回、ラッセル・レイノルズが自己評価の質問票作成を支援したり、外部評価を担当した取締役会評価から、日本企業 に共通するいくつかの課題が見て取れる。ここからはその概要に触れてみたい。

  • 戦略討議が十分に行われていない
    会社法が取締役会に求める議題に関しては、当然のことながら、どの上場企業でも必要とされる審議は行わ れている。ただ、今回のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会を会社の持続的成長と中長期的な企業価 値の向上を図る主体として位置づけている。つまり、取締役会は、戦略上の重要課題でも方向性を定める役割を 期待されるわけだが、国内企業の現状では、そこまでの機能を担う取締役会はまだ少ない。
    それでも、いくつかの企業では先進的な取り組みも現れてはいる。ある大手輸送機器メーカーでは、年数回に わたって取締役会で長期戦略を討議しているほか、取締役会の議長が自らの裁量で大胆に議案を整理して、重 要議題に時間を割いている大手損害保険会社もある。
    一方で、少なからぬ企業では未だ監査会設置会社の形態のまま、執行役と取締役会のメンバーを重複させて いる。戦略的に重要な議論は執行役による経営会議で行い、取締役会は受動的な役割しか果たさないという構 造上の問題もある。
    今回のコード導入をきっかけに、取締役会や議長が新たな〝取締役会像〟をイメージするようになれば、取締 役会の議題整理や運営における改革の必要も少しずつ理解されてゆくだろう。またイメージのみならず、取締役 会が実際に戦略議論を担当し、企業成長や収益の回復に繋がる具体的成果を生み出すようになれば、「ガバナ ンス先進企業=成長企業」という構図が実証され、ガバナンス改革に舵を切る動きも拡大するはずだ。
  • 求められる多様化
    日本企業の取締役会ではここ数年、執行役制度の導入でスリム化が進んできているが、グローバル企業の平 均と比較すると、構成人数がまだ多い企業もある。9人から11人が議論を行う上での理想的な人数と言われてい る。
    取締役会については、メンバーを多様化する必要が指摘されることも多いが、時事通信社の今年7月のデータ では、上場する主要500社において女性取締役の割合は全役員中4.6%を占め(そのうち社外役員の割合が88%)3 ジェンダーの多様性については、2011年には約1%だったことを思えば、徐々に改善されている。
    ただし、多様性の問題はジェンダーに留まるものではない。異なる国籍や年齢の離れたメンバーが自由に意見 を交わせる土壌こそ、今後の不透明な市場環境に柔軟で効果的な対応をする上で、不可欠なものだ。近年は、取 締役の選任理由を明示する企業も増えてきているが、これを形式的な説明に終わらせず、各人のスキルセットや 経験値が当該企業の戦略方向性に合致しているかまで検証するデータにすることも、これからは求められる時代 になるだろう。
  • 後継者育成への関与
    CEOや経営幹部の後継者育成計画を透明化することは、取締役会運営においても究極の重要課題である。た だ現実には、企業経営者にとってCEO後継者選任プロセスこそ最も守りたい専権事項であり、この部分の透明化に は高いハードルが立ちはだかる
    任意の指名委員会を立ち上げても、CEOや経営幹部の将来の育成計画を議論するためには、取締役会メンバ ー(とくに社外取締役)への適切な情報開示など、事務局や人事部の多大な作業負担が必要となる。取締役会の 議長やCEO自らが透明性や公正なプロセス運営の重要性を理解したうえで、そのための支援体制を整えない限 り、指名委員会には形骸化するリスクが付きまとう。
  • 社外取締役への情報提供
    当該企業や産業への知識不足から、社外取締役が十分に能力を発揮できないという懸念もしばしば指摘され る。ただこの点に関しては、取締役メンバーの意識や執行側からの情報提供において近年、急速に改善が進んで おり、取締役会の直面する課題としては、比較的解決しやすいテーマと位置づけられる。

投資家からの評価
このように、金融庁主導のコーポレートガバナンス・コードから始まった取締役会評価だが、先行する米国市場の投資家 らはこの仕組みをどう捉えているのだろう。
ラッセル・レイノルズの米国における2015年調査によれば、議決権行使助言会社大手のISSやグラス・ルイスといった機 関はこの2年間、より公正で厳密な取締役評価を求める傾向を強めている。例えばISSのQuickScore3.04(2015年)は、毎年 の取締役会評価ばかりでなく、取締役会メンバー個々人の評価や3年ごとの外部評価まで開示を求めるようになっている。 2010年に始まった英国のガバナンス・コードは、制定当初から3年ごとの外部評価を奨励しているが、米国もまた、こうした 方向に向かっている。
ある大手アセットマネジメント会社のガバナンス責任者はこのラッセル・レイノルズ調査で、取締役会の自己評価には限界 があるとして、数年ごとの外部評価を通じて取締役評価の精度を上げるべきだ、と答えている。自社の取締役会の強みや 改善点を自己分析するうえでも、外部評価には利点がある、とするアセットマネジメント会社の声もある。 ある大手年金ファンドの責任者は、取締役会の評価は必ず確認している、と明言し、評価そのものの公正性、客観性につ いても調査するようになったという。
このように外部調査のデータを重視する投資家の間では、とくにCEOサクセッションプランニングや経営幹部育成の項目 が、経営のリスクマネジメントとして重要だと指摘する声が強い。取締役会メンバーの経験値やスキルセットの構成といった 項目の注目度も高く、さらには取締役会のステークホルダーとの信頼に基づくエンゲージメントを求める声も聞かれる。 日本での取締役会評価はまだ、始まったばかりだが、先行する英米で見られるこのような動向を考えると、国内でも早 晩、より厳格で詳細な情報公開が求められる流れにあることが予想される。

まとめ
国内における取締役会評価プロセスは、まさに2015年が「元年」と呼ばれているように、始まったばかりであり、その意 義が広く認識されているとは言い難い。
ラッセル・レイノルズのヒアリングでも、「初期的な問題整理には有効であった」と限定的に評価する声がある一方、「評 価の内容をどのように解釈すればよいかわからない」と戸惑う声も聞かれた。特に5段階評価など数値による自己評価を 行った企業では「評価基準が不明確」「他企業との平均点より低いと言われ、驚いた」などと、新制度の意義を疑問視する 声も挙がっていた。

  • 何のための取締役会評価か
    このような反応を受け、金融庁などが今後、コーポレートガバナンス・コードの取締役会評価を、より国内企業 の実情に即した形に変えてゆくことは、十分にあり得ることだろう。
    ただこの評価はもともと、外部に開示するために提起されたものではない。評価内容は一義的に、取締役会の あり方を内部で見直すために活用され、ひいてはガバナンス強化を企業の成長につなげてゆくことを目指すもの だ。何のために実効性評価を行うのか。まずはこの入り口の認識を、メンバー全員で共有しなければ、せっかくの 評価も、その効果は半減してしまう。 
  • 形式的な評価は避ける
    一般論として言えば、自己評価の際、自らの企業を厳しく評価すればするほどに、平均点は低くなるものだ。高 得点を目的にしてしまえば、それは現状を追認する作業にしかならない。自社の目指す取締役会とは、いったい どのようなものなのか。その理想像に近づけるためには、どのような評価プロセスが適しているのか。そういった 思考から評価のあり方を検討しなければならない。
    この点、初年度の対応でも、取締役会の「あるべき」姿を徹底して議論したうえで、現状の評価をした取り組み があった(大手電気機器メーカー)ことは、特筆すべきであろう。
  • 継続的な改善活動を
    取締役会の実効性を向上させるためには、評価のあり方をたゆまず検証し、改善を繰り返してゆくことが必要 である。何よりも取締役会の理想像そのものが、その時々の経営者や時代環境、法的な要請などによって、絶え ず変化を求められ、一度限りの取締役会評価で完結するものではないからだ。
    取締役会評価の意義を正しく認識し、継続的に改善を重ねてゆく。その実現には、取締役会議長やCEOによる 積極的な関与や事務局との緊密な連携が、何よりも重要だと言えるだろう。

Author

安田結子:CEO、取締役サービス部門の日本における責任 者。日本企業の社外取締役の招聘や取締役会実効性評 価・CEO後継者育成計画等の案件に従事。

Yuko Yasuda: As leader of the firm's Board and CEO practice in Japan, Yuko possesses extensive search, succession management, and assessment experience and focuses on a range of senior assignments including CEO and other C-level positions. Yuko conducts board searches and advises Japanese multinationals on board effectiveness.

 

References:

注釈
1 FRC (Financial Reporting Council)
2 ㈱大和総研 「取締役評価の概要と実務における論点整理」より

注釈
3 時事通信社「女性役員起用、半数超す=上場主要500社-時事通信調べ」(2016年7月21日)より
4 Institutional Shareholder Services “ISS Governance QuickScore 3.0" (June 2015) より

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